あたしゃ、見る目のないマグル!

 日曜日の夜、我が家にその時間、居さえすれば見る、明石家さんまさんの番組。歴代、数々の素人名キャラクターを世に送り出してきた功績を称えて、ワーナーブラザース(かな?)ハリーポッターの宣伝スタッフが、撮影中のポッターシリーズにリポーターを送らないかと打診し、一万人の中から選ばれた女の子による取材風景が、OAされた。

 オーディションの模様もつぶさに見せてきたから、どんな子が応募して、選ばれていったのかも見ていた。どの応募者も、ハリーポッターの世界感に、心惹かれてのめりこんだ、マニアな子達であったと思う。そして、その特派員の権利を勝ち取ったのは、本当に何の変哲もない、言って見れば、その辺に居る、田舎臭い(失礼っ!)少女だった。5人ほどの選考に絞られた候補者の中、目の前の映画の小道具に触れ、魔法使いのローブを、ただ一人、手にとって羽織ってみた彼女の好奇心ある行動が決定打となった。

 よりによって…、何で、こんな子が…としか思えなかった僕の感想は、旅立つ前、日本側スタッフが、彼女を家に訊ねた場面から、徐々に変わるのだった。

 お母さんと彼女が、自宅の居間で、インタヴューを受け、今の気持ちを問われ、「何でこの子が受かったのかと思う…」「私は、いままでこの子に何もしてやれなかった…」「自分たちの手では、けっして英国にこの子をやる事なんて出来ない…」と涙しながら、言うのを、彼女は黙って聞いている。

 お母さん、何言ってんのよ、くらいの反論めいた事は、言うのだと、決めて掛かっていた。しかし彼女は黙って聞いていた。

 ハリー役のラドクリフ君も、彼女の取材中、感極まったように言った事だが、オーディションの時から、押えきれないほどの好奇心に満ちたこの子は、信じがたいほどの謙虚さも、また、同時に兼ね備えているのだ。しかし、見る目の無い僕は、まだ、この時点で、まだ、彼女を適任とは思っていない。まあ、マグル(ハリーポッターの世界で言う、愚かな人間達の意…)だしね。

 そう、マグル、クィディッチ(ホグワーツ魔法学校で行われる想像上のゲームの名前)、ハッフルパフ、スリザリン、グリフィンドール、レイヴンクローと言う、生徒達が所属する組の名称。この語感!最高の政治、経済、科学、教育等を実践し、世界のいたるところで覇権を握ってきた英国が、同時に古代からの王制や魔法、妖精を認知し、両立させている不思議!何と言う想像力!何と言う混沌だろう。

 巨大な撮影所に設えられた、しかし、精緻を極める、そして原作を忠実に、しかも上回ってさえ居るほどの想像力に満ちた、世界観を漂わせるセットに足を踏み入れた彼女を、次々と襲う、主役級の出演者。

 悲鳴を上げ、覚束無い英語も交え、しかし、彼女は出演者達に触り、匂いをかぎ、抱きつき、好奇心を全開にする!この子、面白いっ!面白いのだっ!

 ロンに聴く。「ここでラベンダー(役)と、いちゃいちゃしてたんでしょ?」(!)「うん。キスもしちゃったよ…」「!!!…あたし、キスなんてした事無い…どんな感じだった?」 「う〜ん、なんかリアルに濡れてたよ…」

 こんなインタヴュー、聴いた事ない!出演者もたじたじ…、見てるこちらもどっきどきだ!

 ダンブルドア(いい名前だなァ…)校長先生の部屋に行き、組み分け帽子を見つけ、なんのためらいもなく、それを手にとり、かぶりながら、校長の椅子に座って、掌を合わせ、目を閉じて、「私はどの組…?」と、ささやく彼女の背後に、最後の、そして最大のサプライズが迫るっ!

 ハリーだっ!「グリフィンドール…かな…!」

 送られた魔法使いの杖とローブを羽織り、感極まり、涙さえ流しながら、ハリー役のラドクリフ君の顔といわず、体といわず、触り倒すリポーターの彼女。彼女の繰り出す攻撃呪文に、即座に反応し、吹っ飛ぶ演技をしてくれるハリー。

 そして、握手を改めて求める彼女は、「オーディションに来た人の中には、私より素晴らしい人が居た。あなたの事をもっと好きな人だって居たのだと思う…、でもその気持ちを私はこの手に託してもらった…」というような事を言った時、
こちらにもそれと判るようにラドクリフ君の表情が、感激のあまりに変わったのだ。「なんて謙虚なんだ」…欧米でオーディションが行われた場合、自分が他者よりどれだけ優れて、その役に適任であるかをアピールする事に、必死になるだろう。それをこの子は、その場に来られなかった、落選者を思い、その気持ちを汲んで欲しいと願った。

 一人の少女が、味わった、最高の幸運は、見ているこちらにも、信じがたいほどの幸福感をもたらす事を思い知った。そして、あたかも優良なドラマを見せてもらったような、深い感激を味わわせてもらった。凄い企画!