新しいユニット 新しいギター

 約20万円・・・。世の中の、通常の考えで行けば、それほどの価格ではない。どちらかと言えば、職業的に演奏を行う者の楽器としては、ひどく安価な物だろう。しかし、僕自身には天文学的(おおげさだな!)価格であって、人に借りた物以外は、2〜3,000円から、せいぜいが、3万円ほどで手に入れた楽器ばかり使ってきたのは、行うべき表現がブレさえしなければ、楽器の良し悪しは、それほどに差が無い。高価な楽器を買うのは癪、と言う程の理由からだった。

 今日、はらいそと言う、新しいユニットで、初めて使うのは、1973年に製作された、ヤマハクラシックギターだ。当時のカタログ用販売価格で20万円(今回僕が手に入れた価格より高いっ!)。量産品としては、上限であったらしく、加藤俊郎、と製作家の名前が入っている。今年の初め、家の近くで、その楽器に遭遇し、頭を離れずにいたほどの音色と音量を持ったその楽器を、手に入れ、案の定、野蛮なほどの実戦的加工を施した。

 そのヤマハと、先頃まで使用していたギターを持って、長年お世話になっている、ギターリペアの草分けにして、第一人者と言っていい、シャーウッドの太田氏の所に、「今度のもネックを1/3ほど削りたい」と、相談に行った。以前の楽器をしばらく眺めていた氏は、削り込んだネックを見て、「いやァ、信じられない、こんなに薄く削ったネックで、反りもゆがみも全く無い。こんな事もあるんだなぁ」と、ためつ、すがめつ、眺めては、バッハやヘンデルなどを弾いている。

 「今度の奴は、ヤマハ嫌いの僕が、凄いと思う。良く鳴っていて、経年変化も素晴らしい。これ(以前の物)が、このコンディションなら、仕上げはしますから好きなだけ削ってください・・・しかしこれ(以前の楽器)、良くここまで弾きましたねえ」と、表面の塗装は剥げ、地肌は薄く削られたその楽器を離さない。「この楽器製作家は、存命です。いまこれを製作依頼したとして80万円は下らないでしょう」と言う。

 そして、米フィッシュマン:Fishmanのピエゾピックアップをパッシブで使うと言う、以前と同様の選択を最終的にして、後、数時間後の演奏を共にする。

 やっと、20万円ほどの楽器を使う芸になってきた、のかとも思う。