立花隆さんのガン

 膀胱ガンを発病した、ジャーナリスト、立花隆氏が、「ガン」と言う病と対峙し、何故、研究が進み、さまざまな発見があり、そのシステムが明らかになる中で、根治、絶滅を見ないのか、と言う根本的な謎を追うTV番組を見た。

 自分に発症した排尿の異常から、ガンを発見、多発性の物は再発率が8割・・・と言う医師の言葉が、初期のあやふやなX線映像とともに告知される。

 がん告知は、大きな割合で期間の長短はあるものの、死の宣告であろう。しかし、この国有数のジャーナリスト、立花氏は、極めて冷静な受け止め方で、その状況をリポートし、ガンの正体がなんであり、何故、それによって多くの人が苦しみ、命を落としていくのかを、映像で記録をしつつ、探り始めるのである。

 恐怖が、無いわけがない。検査に伴う苦痛や不安は、いかばかりな物であったろう。疑いが徐々に形を帯び、悪夢となる。鳥越俊太郎氏も、また自分の闘病を映像に収めていたのを思い出した。ジャーナリストの血であるのか、性であるか、動転し、不安で頭の中が白くなる以前に、テレビ局にその取材を企画として提案し、受け入れさせている事に、ガンを経験した私は、驚かないわけに行かないのだ。

 そうして氏は、世界中の最先端を行くガン研究者に、自分の、また、世界中のガン患者を代表するような、根源的な疑問を投げかけて行く。「ガンとは何であるのか」、また「ガンは何故治らないのか」と。

 人間の身体は、生きている限り、新陳代謝を続け、細胞は、自身をコピーし、増殖を続ける。しかし、それのコピーミスは避けがたく、生物が幾度となく直面した地球と言う環境の中に起こった、低酸素状態に、抗う為の免疫、とその獲得、進化の過程に生じた必然が、ガンを治せなくしている・・・と言うより、正常細胞と異常な細胞であるガン細胞が紙一重に混在する事は、体内の宇宙空間のような世界を拡大すれば、やむを得ず、正常な細胞が、ガン細胞の存在や増殖をを助ける事さえ、頻発するのだという。

 深遠なその宇宙を、DNAに記憶されたそのシステムは、一人の研究者に、その繋がりすべてを把握する事など、不可能なのだ、と言う事が判って来たのだそうだ。

 そうして、番組後半では、ガンにより死を迎える、数人の患者と、それを独自のサポートで励まし、苦痛を和らげ、最後の時間を、悔いのなるべく残らないようにするための努力を惜しまない、一人の医師の行動に焦点を当てた。

 医師は「人間は、死ぬまで生き続ける力を持っています」と言う。立花氏も、この問題に関わり、突き詰める中、そうじたばたしなくても良いのだ、という結論を得たのだそうだ。

 宇宙と生物の、とてつもない時間の積み重ねの中、我々は、与えられた時間を生きる。その何かを成すべき時間も、有限を愁うのか、無限の充実を感ずるのか、また、紙一重のように思う。