小川敦生氏 個展

 もう、干支で言えば一回りも前。

 急性の白血病を発病した僕は、病院を出られなくなっていた。そして、それまでの、足立兄弟、AUSIAとしての作品、演奏をできるだけ記録しておきたいという願いは、籠の鳥となった自分には、急務と思われた。

 いろいろな方にお骨折りいただき、足立兄弟の一枚目、CD「足立兄弟」のマテリアルとなる録音を、外出の許可が出た2日間で、ともかくも録り終え、残る作業も、スタッフにお任せし、少しばかりの充実感と達成感を得ていた。そんな頃、「足立兄弟の音楽に似た感じの絵を描く人が居るんです」と、言って下さったのは、サポーターのKさん。

 緻密な一筆描きの連続模様を、人間業と思えないような技術で、形にしてしまう。ダメモトで、連絡をとって、アルバムに作品の提供を願い出た。驚いた事に我々のことをご存知で、唯一、発売されていた、だいぶ、いい加減な録音のオムニバスカセットテープを、よく聴いて下さっていたと言う事だった。

 入院中の病院にお運び下さったのは、我々よりもだいぶお若い、エネルギーの固まりのような方だった。

 小川敦生さん。

 作業を快諾して下さった氏は、CDジャケットのサイズで、作品を描いて下さるという。大きな物を印刷の技術で縮小する物と思っていた僕は、大いに驚いたが、ご自身の気持ちとアイデアにすがろう、と思った。ご用意くださった羊皮紙に描く、とおっしゃり、何点か、候補を描き下ろして下さった。

 薄い黄色の羊皮紙に、黒い線で描かれた作品は、意匠の素晴らしさはもちろんの事だったが、発売の折、CD店の棚に並んだ際、いくらか人目を引き難い色目か、と懸念した僕は、スリーヴデザインをして下さったT氏に頼み、赤い地、白い線での物に変更してしまった。その事で、小川さんに、「これは、もう僕の物ではない」と、愛想をつかされるほどに怒らせてしまったので、氏のバイオグラフィーの、画業から、我々のCDスリーヴデザインは、除外されているかも知れないけれど・・・。

 氏の個展が催される。 

 2010年9月25日(土)〜11月20日(土) 小川敦生 展

TRAUMARIS 渋谷区恵比寿1-18-4 NADiff A/P/A/R/T 3F 15:00〜23:00 日祝休

小川敦生 http://www.turqoiserosco.com/atsuo_ogawa.html