The Kids Are Alright , Of course ! Of course !

 '70年代の終わり、更に、その数年前から行ったきりになっていた兄の様子を見に、定職も無く、バイトで貯めた、なけなしのお金で、航空券を手に入れて、ロンドンに行った。パンクさえ下火に成っていた、彼の地で、大きな楽しみとしていた事の一つは、The Whoの記録映画:The Kids are Alright .を劇場で見ることだった

 間抜けな事に、上映期限が過ぎていて、その時は、映画館で見ることは、出来なかったが、後にビデオで入手して、目の当たりにした、その貴重極まりない映像、記録の数々には、狂おしいほどに、強烈な刺激を与えられ、自分の創作、演奏に、とてつもなく大きな影響を受けた。

 しかし、字幕無しのものでは何を言ってるのか良く判らず、つい最近日本語字幕つきの物を買った。

 Pinball wizard, See me Feel me, sparks, Who's next 等々、数年見ることの無かった、その映像の、会話やインタヴューの細かい部分も理解できて、面白く、すぐに惹き込まれてしまう。そして、また、すぐに、字幕などどうでもいいほどに彼等のステージ、音楽、衝動に、目や耳を釘付けにされ、惹き込まれ、震えるほどに感動させられるのだった。

 彼等はずっと四人組であって、類い稀なヴォイシングを確立した、自分でそう呼ぶところのパワーヒットギターのピート、タウンジェント。ピートが「うちのバンドのリードギターは、こいつ」と言うほどに雄弁な、ベースプレイヤー、ジョンエントウィッスル。いずれもが、壮絶な技巧の持ち主であり、その二人の創る対旋律は、時に、フルオーケストラを凌駕し、大バッハのそれを凌ぎさえするように、重厚、美麗、簡素にして豪華な物と聴こえる。

 それに、この上ないタイミングで、歌われる、三声、極上のコーラスは、力強く、申し分の無い、ロジャーのリードヴォーカルを彩って、ピート曰く「会った中で一番変な奴」と言う、このバンドの影の最重要人物、ドラマー、キースムーンの、ドラミングにとどまらない存在感に、彼等を知った子供の頃からの感動を蘇らせた。

 クリームが、ドアーズが、ヘンドリックスが、ビートルズの後を受けて、感性を剥き出しにし、作り上げた凄まじい空間と、同じ時代に、こんなにもこの上ない集団芸術が完成され、そしてすぐに続くジェスロタル、クリムゾン、EL&Pやイエスに爆発の連鎖が引き起こされるのだなあ。

 '60年代の終わりに、Hairというミュージカルが世界各地で上演され、演技者全員が、全裸になってしまうという、ショッキングなエンディングと、大ヒットしたテーマ曲、The fifth dimensionによるAquarius(水瓶座の時代), Let the sunshine inによって物議をかもした。

 水瓶座の時代とは何か・・・、まだ、当時、ほんの小学生だった僕は、兄の答えに現代の音楽を含めた、文化の状況とを、今思い返し、重ね合わせては、なるほどなあ、と、その符合に、膝を叩いたりするのだが、・・・水瓶座の時代・・・天空を水瓶座が支配する時期に、音楽や美術、芸術、文化がお互いに触発され、隆盛を極める。そして、その時期がもうすぐ終わるのだと言う内容が歌に込められているのだと言うのだ。差し詰め、現代はアスリート系の星座が天空に居座ってでもいるのだろう。

 海外の情報は、割と豊富に入ってきていた、この国の、この時代。二つ三つ、心残りがあるとすると、ザ フーとクリムゾンの70年代を体験できなかった事と言えば、今時、当時の音楽に傾倒している若者に贅沢な話、と片付けられてしまうだろう。クリームやジミヘンは、実際に目の前で体験できたとして、自分のその頃の年齢では、到底、真価を理解出来たとは思われないし、ビートルズは、やはりスタジオで作られた部分を、僕は、より多く楽しんでいる。

 過ぎ去った時間の、美化や礼賛でなく、同時代を生き、音楽に電機を持ち込んだ、最初の世紀を生きられた事を、誇りに思い、数々の驚くべき瞬間を、直接、間接的にも目撃し得たことを、また、嬉しく感じるのである。


 写真は一枚目のCD,「足立兄弟」アルバムスリーブを描いて下さった小川敦夫さんの個展(11月20日(土) まで。TRAUMARIS 渋谷区恵比寿1-18-4 NADiff A/P/A/R/T 3F 15:00〜23:00 日祝休)で、壁面に特殊なペンで描かれた物の一部。会期以降、消されてしまう!