クリスマスロット!


 スロットカーレーシング。

 1/24とか1/32縮尺の、モーター付き模型自動車で、溝(スリット:だからスロットカーレーシングって言うのだ・・・)が切り通され、それに添った電極のあるコース(大きなものでは、100m.以上もある)を、車体下部前方に、出っ張らせて付けられている、ガイドシューというというものから電流を得て駆動させ、手元にあるコントローラーで、スピードを制御しながら走らせる、60年代に爆発的(誇張ではなく、東京では、各町に一軒はあった)に流行った遊びである。

 学齢前から、これに惹かれ、当時のレーシングカーの造型にそそられて、ネットオークションで、当時の物、主に模型の部品であるが、安価であれば、それを買い集めていた。

 今年も後半になって、それらの模型をちゃんと、組み上げてみたい、と言う衝動が俄かに沸き起こり、覚束無い手と、老眼の進んだ目で、それを始めた。

 着色などの細かい部分は、無理と決め付けていたのだが、案外とうまく行って、塗料の質の向上などもあり、子供の頃に製作したよりも、はるかに美しい(と思う・・・)車が、10台程も出来上がり、部屋のあちこちに、ディスプレイ。照明を当てたり、携帯電話のデータフォルダーにも、あきれるほどの枚数の写真を収めて、一人にやにやとする日々を送っていた。

 しかし、そこは、電動の模型自動車である。

 これを走らせたい!と言う、成り行き上、必然と思われる感情が、芽生え、それは日を追うごとに大きくなった。

 しかし、それを走らせる施設、サーキットが無いのだ。こちらの心離れやら、数十年単位のご無沙汰は、棚の奥にしまいこみ、「なんで無いかなあ・・・」と、ぼやく事しきり。

 そう、遠くない所にあるらしい、二件の施設を訊ね、その一つは、確かに営業していたのだが、足を運んで、部品などを買い込み、店員や訪れていた、ファンなどとも和気藹々、談笑し、ひそかに、通うことを心に誓うも、その数週間後、定休日をネットで調べていたら、突然(な訳ないよな。行った時に言えよっ!)の廃業。もう一軒も、だいぶ前に潰れていた。

 ネットオークションで、コレクションの一つをお譲り下さった、同年輩の男性は、四国でそのサーキットを経営なさる方だった。しかし、関東から通うわけには行かない。

 もう、あの、モーターのシュルシュルとまわる音、タイヤが削れるゴムの匂い、目の前を、風を切りながら、猛スピードで走り抜ける車を、操る感触は、味わう事が出来ないのかと、寂しく、又残念だった。

 我が家のある、埼玉県和光市に引っ越してきてから、もう、四半世紀を数える。引っ越した当時、やる気のうかがえないファミリーレストラン状の和食屋があり、それは、レンタルヴィデオ店や、リサイクルの家具屋へと姿を変えていったのだが、立地のせいか、ねらいが悪いのか、どれも長続きする物は無かった。

 朝、仕事場に向かう道すがら、横目に見るその建物。今回は、なにやら今風の美しい内外装で、「今度は何になるのだろう」と、少し興味を引かれていた。そして、建物の形が美しく整えられ、看板が設えられ・・・看板が・・・radio control car. slotcar・・・!スロットカー?????

 若い頃訪れたネス湖で、仮に水辺を泳ぐ大きな生き物に遭遇したとしても、これほどに驚き感動したとは思われない。我が家から徒歩で五分ほどの所である。犬の散歩でももう少し足を伸ばすほどの距離である。そこにスロットカーのサーキット!ホームコースじゃんっ!危うく気絶するのを免れ、うつろな目で、仕事を終え、夢見心地で、帰宅し、上の空の夕食(昨日より仕込んだクリスマスディナーである・・・)も、気もそぞろに一人で掻っ込み、手持ちの車を調整し、ケースに収めると・・・、ああっ!まばらな客数に、未来永劫この店が繁栄する事はありえないだろう、とは思いつつ、微力ながら、宣伝はさせてもらうぞ、とまなじりを結し・・・大仰だなあ・・・。

 サンタさん。あんた、居るねっ! 52年間で一番嬉しい聖夜であった。

 和光 Craft Square http://web.me.com/craft_square/Craft_Square/Shop_guide/Shop_guide.html