オニオンディップ

 若い頃(そればっかり・・・)アメリカ人の叔父の家に行けば、よく振舞われた、オニオンディップ。

 紀ノ国屋、明治屋、広尾インターナショナルなどの、輸入食品を多く扱う店で、買う事のできた、グリーンオニオンディップミックスの粉と、サワークリームを混ぜ、ミルクでゆるさを調整し、ポテトチップスを浸して食す、アメリカ生まれの物であろうか、後を引き、止め難くなる食品があった。

 ポテトチップスにリッチ、且つ、適度な酸味と旨味を与えるクリーム状の物で、アメリカ製の食品の中では、知人に振舞えば、驚嘆と賛辞を持って受け止められる、数少ない食品・・・との認識を持っていた。

 そして、それは、特殊な輸入食品店でしか、求められない不便さから、そう言った店を近くに持たない我が家では、思い出されることも無く、20年程を経過していた。

 現在、L.A.に住む叔母の、喜寿を祝う為に、アメリカに発った姉が、土産として、そのグリーンオニオンディップミックスのパウダーを買ってきて、送ってくれた。

 近所のスーパーマーケットでもサワークリームくらいは買えるので、ディップを作り、一緒に購入した、大量のポテトチップスとともに、息子や娘に食べさせてみた。

 体重増加を気にする、年頃の娘も、普段、食に殆ど関心のない25歳の息子も、これにハマッタ!

 在庫のある時期に、我が家を訪れた友人、知人に食べさせる、出かけていく先で、友人宅への手土産として持っていく、すると、一様に「初めて食べた」「凄く美味しい」「止められない」と、おそろしく評判がいいのだ。

 いかなる理由であるのか、その大好評、簡単、手軽な、持ち運び至便、しかも安価であるこの食品を、輸入食品を扱う店など、珍しくなくなった今、扱っている店が、見つからないのだ。

 そして、我が家の在庫が底を尽き、息子や娘のリクエストが、厳しくなる中、昨日の土曜日、東京のマーケットで、私は、探索行を試みるのだった。

 知らぬまに、すっかり規模を縮小して、建物の地下ワンフロアのみとなってしまった、青山の紀ノ国屋で、数人の担当者にたらいまわしされたあげく、見つけたその類似品が、上の写真にある物である。(サワークリームは我が家の近くで購入)さっそく一種類を買い置きのサワークリームと混ぜ合わせ、ディップを作り、息子に食わせれば、「おんなじだ・・・」と、及第のようだった。

 パンも美味しい紀ノ国屋の、ベーカリーの一角に、背の高いコック帽を被る60年配の男性が立っていて、買い物客に接していた。

 「変な事をお聴きします」と私。

 「恵比寿に古くからあるキッチン・ボンと言う食堂で出て来る、クミン?でしたか、種子の入ったパンがあって、それを僕は、とても好きなのです。こちらの製品だと聴いた事があるのですが、棚にあるでしょうか?」

 「ああ、キャラウェイシード入りの物を、何十年も前からご用命です、しかしそれは、うちの製品ですが、特注で、種を大きいまま焼いてしまうので、こちらでは扱っていないのです」

 「キャラウェイでしたか、では、似たようなものはないですか?」

 「クミンとキャラウェイは同じなんです。こちらのパンが、もっとその種を細かくしたものを練りこんで焼いてあります」

 それは、とても美味しいパンだった。しかし、記憶の中で、その種子を、まるのまま練りこんだ、キッチン・ボン指定のレシピで焼かれたパンの方が、力強く、香りも高く、より好みだった事、何十年も前にそんな指定を与えたボンのご主人の慧眼を思いやらずには居られなかった。