取るに足らない夢の話

 人の夢の話ほど、興味を削ぐ事は少なく思う。

 ・・・。僕の独演会と言う事になっている。早めに現場に入っている。例によって、演目など決めていない。共演者も居ないし、行き当たりばったりでいいな、と、落ち着いた振りをしながら、心底焦っている。

 比較的、入りの多い中、何かに気付く。現場に入る前に、学生時代を過した地元の中学、校舎の一部でも、演奏会場がこぢんまりと設えられていて、多くの旧友やら学友やらが集まって来てくれていた。

 何故それを知ってるかと言えば、本来の演奏会場に行く前に、僕は、そこへも顔を出し、「今夜はよろしくね」と、やらかしているのだ。

 何故二箇所で…まあ、そこが夢なのだが、そして青ざめながら選んだ解決策は、自分が会場入りする時に、何故か乗って来ている原付きバイクでのピストン輸送。平謝りに謝って、事情を説明し、知り合いの多い方の会場から、一人一人を本会場に二人乗り(もちろん違法だっ!)で運ぼうと言うのである。

 その方法をとろうと決めた開演一時間前、会場の壁の一つに、新聞の小さな切抜きほどの大きさの宣伝ビラ…今はフライヤーとか言うね…を、発見し、関係者をなじりながら母校へと向かうのであった。

 学校に着き、さらに数を増しているが、皆、顔見知りという入場者達に、肩を叩かれ、「期待してるよ」「楽しみにしてたわよ」などと言われ、事情を中々説明できずに居る。

 と、ここまで書いて、愚かしさが募り、こんな文章誰が読むか、と改めて気付く。

 この後、校門の所に列をなして客待ちをしているタクシー(何故?)に分乗させたり、いつも来て下さるお客さんの名前が思い出せずに怒らせてしまったり、観客を本会場に導く算段が付いた時に、どうせなら、忘れてきた(!)マンドリンを、程近い我が家まで、取りに帰ろうとしていたり、バイクを置いた場所がどうしても思い出せなかったり…と、悪夢は延々事態を深刻にしながら進み、もはやこれまで…と言う所で、右肩を寝違えて痺れさせ、冷たい汗を掻いて目覚めるのだ。

 何故、こんな夢を見たのか考えれば、いっつもこんなふうに、準備を怠って、演奏会の数日前に、やるべき事が山積されてのしかかるような、日頃の心構えの悪さに他ならなく、今朝見ていた高橋選手のフィギュアスケートの演技に、尋常でない努力と経験(百試合目の!国際大会だという…)、周到な準備と、数限りないイメージトレーニングやシミュレーションに打たれ、彼我の違いに打ちのめされたからであろう。

 しかし、彼もこんな夢を見るだろうな。演技以前に、シューズの不備に気付いたり、衣装を忘れたり、馴染みの無い、海外での、会場入りに梃子摺ったりの夢…。

 無いかなあ…。