要らぬ心配

 暑い盛りの週末、家に居れば、テレビをつけっ放し。動物や昆虫の知られざる生態を紹介する番組。

 観光が大きな産業であるというイメージのあった、豪州。数匹の群れで、大きなトカゲやヤカンガルーを襲い、餌とする野生の犬(!)ディンゴ。海底に潜み、また、数千〜数万匹で、一つの森ほどの広さに巣をかけ、獲物を待つ魚や蜘蛛。50年生きてきて、こんなにも不思議な、知らなかった動物の生態があるかとビックリの連続だったが、とりわけ、蟻の体内に卵を産みつける、あるハエの話には、総毛立った。

 蟻の体内で孵化したそのハエの幼虫は、寄生した蟻の身体そのものを、養分としつつ、その蟻の脳の部分に侵入し、蟻の行動をコントロールする(!)のだと言う。そして、成虫となり、いよいよ寄生した蟻の体が不要になると、ジタバタされないように、蟻の首その物を、切り落として出てくるのだそうだ。たくさんの蟻の首がならんだ傍らに出てきたハエの子供たちの映像に、仁義のねえのは人間の世界だけじゃねえな、と、戦慄しつつも思わざるを得ないのだった。



 もひとつ。明石家さんまの番組。番組レギュラーの浅田美代子つるの剛士らと共に、新婚のタレント宅に押しかける企画。美しいと評判の新妻が、振舞う、あんかけ豆腐ハンバーグ。味噌汁の椀があり、ご飯茶碗にご飯。お箸が銘々に渡される。そこへ大皿にぼてぼてっと無造作に盛られた、かのハンバーグ。一瞬の間の後に、機転を利かせた、つるの君「直箸(ジカバシ)でいただきま〜す」と。つづく浅田、さんまもご飯茶碗で、ちぎったハンバーグを受けて・・・。

 続いて、放映局アナウンサーの、新婚宅へ移動。こちらの新妻も、とても素人とは思えないような(?)美人。しかしこの若奥様自慢の手料理(内容を忘れてしまった・・・)も、取り分ける皿、食器をあてがわれずに供されるのだった。

 戦後間もない、または、ソレドコロジャナイ大家族の生活ぶりではないのだ。渋谷区だか港区だかの、食洗機など、当たり前のように付いているであろう、高級、高層マンションでの出来事である。

 この2家庭において、箸置きはおろか、取り皿、銘々皿、手塩の類いが一切出てこないのだ。まったく突然のさんまたちの来訪ではあるはずもない。いかにも新居、新婚らしいたたずまいの家具、調度は、コーディネーターが入ったと思われるほど、綺麗に整えられている。

 新婚家庭が、気に入った食器を、徐々に買い揃えていこうね、などというのは、大変好ましい、微笑ましい事である。しかし、いずれも、結婚式で、お祝いのVTRが多数寄せられ、披露宴が4時間にも及んだ売れっ子お笑いタレントであり、将来が嘱望され、局を挙げての大騒ぎになったというアナウンサーの新婚家庭なのである。 一般家庭よりも広い付き合い、人寄せも多かろうと想像される。

 何故、その程度の手配が出来なかったか。おそらく、そのカップルの育った環境には、取り皿という物の存在がなかった、のではあるまいか。いやあ、でも、彼等が中華料理店などに入った事がないとは思われないよなあ。

 この国では揃えようと思えば、和洋中、普段使いや客用、箸やカテラリー、うどん、そばの丼、ラーメンの器、正月用の食器、一式。グラスや茶碗の類など、途方もない数の食器が、頭に浮かぶ。

 洋画を見ると、少しあらたまった場面での食事は、こじんまりしたテーブルでも、燭台や花で飾り付けられ、精一杯の食器とグラス、手料理も蝋燭の火の元でもてなす場面を良く見ては、良いよなあ、と感心してしまう。

 この国では食の多彩さが仇となって、スタイルを絞りきれないのだろうな。きっと、この若奥さん達は、自身の美貌を獲得する過程で、そんな事はシッタコッチャナカッタ、のだろうな、などと思いつつも、ここの家庭に呼ばれちゃったらどうしよう、などと要らぬ心配しちゃうのだった。